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最終更新日:2023/08/24

ヤンセンナメラの飼育と繁殖

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

和名/学名:

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

 

分布:

インドネシア(スラウェシ島、スラヤール島、ブトゥン島、カバエナ島など)

全長:

160-200cm、最大230cm以上

温度:

25-29℃

 

繁殖:

一度に2-9個の卵を産む。卵は27-29℃で約120日で孵化する。孵化仔のサイズは約45cm

 

寿命:

12年以上

英名はジャンセンラットスネーク(Jansen's Rat Snake)。体色が尾にかけて黒く染まり、旧セレベス島に生息することから、別名「Celebes Black-tailed Rat Snake」

樹上棲傾向の強い昼行性の蛇で、スラウェシ島とその周辺の島々の熱帯雨林(標高100~1000m)に生息し、鳥、ネズミ、リス、コウモリなどの鳥類や小型哺乳類(ホソツラナメラと同じであれば幼蛇はトカゲ)を捕食します。

体色は灰、黄、アイボリーなど、かなりの個体差があり、体側に入った黒の模様は、斜めに規則的に並ぶものから、横方向にべったりと墨で塗られたようなもの、模様が全くないものまで存在しますが、通常尾はどの個体も黒く染まります。スラヤール島のヤンセンナメラは体全体が黒化し、顔つきや体型がスラウェシ産のものより細く、より樹上棲傾向が強い。

本種に関する情報は少なく、近縁のホソツラナメラと同列とされることが多いです。そのため、自然下では一日の大半を樹上で過ごし、鳥をメインに捕食していると推察されますが、飼育下では食性が鳥に偏るといったことはなく、冷凍マウスやラットに容易に餌付きます。本種はホソツラナメラほど樹上棲傾向が強くなく、にも高くまでは登らないという情報もあるようです。体型もホソツラナメラよりやや太く、容易にマウスに餌付くことからも、実際には林床などの地表でも多く活動していると考えられています。

輸入状態はWCのアジアの蛇のなかでは比較的良いほうで、飼育開始時から餌食いだけは良く、一見問題なく飼えそうな印象をうけますが、輸送時のストレスからかフンの状態が非常に悪く、大半は緑色の尿酸をしています。そんな状態でも、立ち上げ中に突然死ぬといったことは稀で、本来は頑健な蛇です。

WCは基本的に寄生虫を宿しており、飼育下に置くことでさまざまな問題が生じる可能性もあるため、最初はほかの個体とは隔離して検疫期間を設け、駆虫する場合は早めに済ませてしまいましょう。

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

飼育

基底温度25-29℃、夜温23-25℃、ホットスポット30~32℃。幼蛇の飼育やWCを立ち上げる場合には、27℃を下回らないように管理したほうが状態良く飼えます。経験上、それなりに低温にも耐えられますが(WCの雄を下限15℃で約二ヶ月間、クーリングさせたことがあります)、周囲の温度変化にはかなり敏感で、季節の影響を多少なりとも受けるような環境では、保温しても冬季にかけて餌食いが落ちることがあります。

ケージは通気性があり広くて高さのあるもので、光周期や昼夜の温度変化をつけると、蛇の生活にメリハリがつき非常に落ち着きます。本種は不衛生な環境からの脱出欲求がひときわ強いように感じられ、環境に不満があると、途端に落ち着きがなくなる事があります。水の交換を怠ったりは致命的で、次いで蛇自身がいつも居座っている場所の汚れ、古びた床材を使い続けたりして環境が悪化してくると、並行して落ち着きなく徘徊し、吻端を押し付けるといった行動が目立つようになります。こうした不適切な環境に対する異常な行動は、まだ本調子ではない飼育開始当初よりも、時間経過とともに蛇の調子が上がってきた頃に、ある日突然起こります。小さいケースではこれらの問題が生じやすく、不要なトラブルを避けるためにも、できれば大型のケージで飼育し、蛇が好きな場所を自分で選べるようにします。

レイアウトは枝やコルクを組んで配置すると立体的に活動し、植木鉢に支柱を立てた観葉植物を入れることで葉がシェルター代わりになり、植物に水を与えればある程度湿度も維持できます。下に居ることも多いので、できれば底面にもシェルターを用意します。

例外として立ち上げ​時などの特別な場合には、最初からレイアウトされたケージには入れず、まずは検疫用の簡易的なケースで管理します。ケースには床材を敷き、水入れとシェルターだけを入れ、ケースは必要な面を新聞紙などで覆って視認性を低くします。樹上棲傾向の強い蛇全般にいえますが、水を充分に飲めているかが飼育の要なので、なるべく水入れはシェルターの入り口付近に置いて、蛇が顔を出せばいつでも新鮮な水を飲めるようにします。この設定は定期的に与えられた餌を残さずに食べ、最低でも脱皮を2~3回は確認できるまで続けます。この間に個体のチェックや、必要に応じて駆虫を済ませ、蛇の健康状態を万全にしてから広いケージに移します。

適切な処置を受けたあとの本種は、余計なストレスを与えない限り丈夫でおとなしい蛇ですが、WCを立ち上げる過程を行わずに飼育すると、何らかのトラブルに見舞われることが多く、それにともない死亡率が高くなります。

-給餌

積極的に動き回って餌を探すのは一日のうちごく僅かで、基本的には樹上でゆるやかなとぐろを巻き、近くまで来た獲物に襲いかかる。

ケージの底面で活動することも多いですが、おもに地表で活動するシマヘビやホウシャナメラほど活動的な蛇ではありません。シェルターから顔だけ覗かせていることもあり、こうした蛇が落ち着いているときを見計らってケージの扉をそっと開け、大型の鉗子で餌をゆらすと近づいてきて食べます。

ただし、これは人の存在や環境にれている場合の話で、実際には自分から近づいてきて餌を食べることはまず無いです。WCの場合は、顔の近くまで餌をもっていったとしても、怒った拍子に餌にかみつき、そのまま呑みこむといった感じになります。逆にこの怒りやすい性質を利用し、拒食個体でも怒らせて食べさせる方法が使えますが、かなりのストレスになると思うので、餌に仕込んでの投薬時など、拒食中にどうしても食べさせたい場合を除いて、あまり使わないほうがよいでしょう。

人の存在に対しては怒りやすく神経質な反面、置き餌の食いは良く、各冷凍のマウス、ラット、ヒヨコ、ヒナウズラ、スズメなど、特に問題なく食べます。比較的大きな餌も食べますが、大きすぎる餌には怖がって近づこうとしないことがあります。本種は拒食で悩まされることは殆どありませんが、食べる餌のサイズに対しては慎重なところがあり、飼育環境に慣れていないWCや幼蛇では、その傾向が強く出ます。ただし、これには性差も幾分か関係があるようで、雌は成長とともに食欲が雄を上回り、餌のサイズに対しても雄ほど慎重ではないようです。雌は体も一回り大型で、より大きな餌を消費する能力を有し、最終的には雌雄で給餌量や頻度をわけて設定する必要があるでしょう。
給餌の量や頻度は目安にしかなりませんが、基本的には年間に与える餌の量=蛇の体重×2-4とされています。たとえば600gの個体なら週に一度、25g程度のマウスを最低一匹与えます。成長途中の幼蛇や繁殖に用いる雌、肥満や痩せすぎ、飼育環境によっても量を調整します。
こちらの環境では、基本は雌雄ともに10~14日に一度。妊娠中の雌や調整中の個体はより高頻度で、マウス、ラット、ヒヨコを与えています。一度に与える餌の量は、蛇の体重の10%以内になるよう調整します。いずれの場合も、雄の給餌量が雌を上回ることは殆どありません。

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

幼蛇や亜成蛇には3~7日に一度、餌を与えられますが、胴の太さと同じぐらいの餌を基準にし、量も少なめに与えます。高頻度で多量の餌を与えると肥満になり「与えた餌の量の割に成長しない」といった状態に陥ることがあります。そのような個体は次第に活力も失せ、拒食や餌の選り好みも多くなり、繁殖にまで悪影響を及ぼす可能性があるので、注意が必要です。一連の拒食や肥満が治るまでに掛かる時間を考慮すると、自然下で経験する飢えなどのマイナス要因は残しつつ、常に活力のある状態を保つことで、結果的に餌をとる頻度も多くなり、成長も見込めるのではないかと考えています

​​水に関しては水入れからも飲みますが、どちらかというと、霧吹きで自身の体やケージの面についた水滴を飲むほうを好みます。本種は生まれたときから体に水が付く事をおそれず、より新鮮な水を好むため、本来は降雨からの水分補給が主なのかもしれません。

蛇が見つけやすいような大きめの水入れを設置したうえで、定期的にケージ全体に霧吹きをすれば湿度維持にもなり、同時に活性もあがります。

繁殖

現状ではWCでの繁殖が多くなると思いますが、数年飼いこんだところで臆病な性質までは変わらないので、ペアリングの際も人目につかない環境を用意する位の配慮は必要です。同じような環境で飼育しても、発情の度合いには個体差があり、雌雄を多く用意することで繁殖が成功する確率も上がります。また、一度でもペアリングに成功したペアは、次回以降も成功しやすいという傾向があります。​

WCの場合は、親個体を事前に立ち上げておくのは勿論のこと、継続した繁殖にはストレスのない環境が必要です。人通りが多く落ちつかない等、飼育環境に何らかの問題があった場合、交尾まではうまくいっても、雌がケージ内に卵をばらまいたり、無精卵が多く混じったりと、トラブルが多くなります。これは、世話などで一時的に与えられる強いストレスよりも、常に人の存在が近くにあり落ちつかない、飼育環境が不適切で居場所が決められないといったように、継続的に与えられるストレスのほうが個体へのダメージが大きいからで、繁殖はおろか、最悪の場合は雌雄の一方が先に死亡します。こちらの環境で卵がとれているWCのペアは、雌雄ともに二年以上は飼い込んだもので、雌の入手時の大きさから判断すると、おそらく初産だったはずですが、最初から無精卵がひとつも混じることなく、完璧な状態の卵を7個産みました。

この親個体はケージの前面などに黒いシートを貼り付け、視認性を限りなく低くした温室で飼育していたもので、活動時間や休息場所、水を飲みにくるおおよその時間にいたるまで、一日の生活のリズムがほぼ決まっていました。

-交尾

自然下では、雨季への移り変わりが刺激になり発情すると考えられますが、飼育下ではこの限りではなく、タイミングを見計らって(おもに雌の脱皮後)雌雄を一緒にするのがもっとも簡単です。

とはいえ、環境に一時的な変化をつけてからペアリングさせた方が成功率は高く、ホソツラナメラでは多くの成功例がある、数週にわたり湿度を上げる方法や、約二ヶ月間のクーリング、光周期の変化など、一応幾つかの方法が使えます。

ただこれらは単に、最終的に雌雄を一緒にした事でうまくいったように思える節もあり、結局は飼育環境によく慣れた状態の良い雌雄さえ揃っていれば、環境に大きな変化を加えなくても、ペアリング後すぐに交尾が見られることもあります。

ほかにもホソツラナメラやタイガーラットスネークで用いられる、大型のケージにペア飼育で繁殖させた例もあるようで、その際には互いの存在に慣らすための時間を要するといいます。一部のラットスネークでは、共食いや、給餌後に餌のニオイがついた同居個体に咬みつき、そのまま絞めあげるといった事故が稀におこりますが、本種ではその心配は無いと思うので、いつまでたってもペアリングが成功しない場合には、ペアでの飼育も一考の余地はあるかもしれません。その際には、餌を個別に与えるということと(さすがに給餌中は餌の奪い合いになる可能性があるので、ペアを一時的に離します。給餌後であれば、すぐに一緒のケージに戻しても大丈夫です)、交尾を確認するか雌が妊娠した段階で、また雌雄をわけて管理します。
本項に書いただけでも、光周期や湿度の変化、クーリング、ペア飼育、雌雄の一定期間の分離?と、一応いく
つかの方法で卵をとる事が出来ます。結局のところ、いずれかの方法で発情させることさえ出来れば、特に季節に関係無く卵を産めるようです。ナミヘビのなかには、繁殖期には繁殖行動が盛んになるというだけで、実際には年間を通して繁殖が可能な種も居るといいます。年間を通して卵を産める本種もまた、季節性を殆ど感じません。

交尾はまず雄が雌を追いかけて体の上に乗り、そのまま小刻みに体を波打たせたような行動をとります。雌がこれを受け入れると、すぐに交尾を開始します。この体を小刻みに波打たせたような行動は、交尾終了までの間に一定間隔で絶えず繰り返します。交尾時間はだいたい46時間のようです。

-妊娠/産卵

妊娠期間は約60日。栄養状態の良い雌は90~120日ほどの間隔をあけて数クラッチすることもあり、一年に最大4回卵をとれます。クラッチごとに受精率は落ち、無精卵を産卵前脱皮から数日で先に排出することもあります。通常の産卵は脱皮から10~14日。卵一個の平均重量は約30(24-35)g。

交尾後は雌の食欲が増進するので、消化を見ながら一回の量を少なめ、回数を多めに与え、3~4週間ほどたつと今度は卵の成長とともに食欲が落ちます。餌を拒否したら産卵まで餌を与えなくても構いません。妊娠中は腹部を圧迫しないような体勢をとっていることも多く、普段とは違う場所でとぐろを巻いていることもあるため、必要な場所を自身で選べること、それにともないストレスなく行動できる環境は、正常な卵を産むうえで必須になります。通常、雌は産卵から一週間以内には餌を食べますが、産後疲れを考慮して少量の餌からはじめるのが無難です。

 

-孵卵

本種の卵は卵殻が非常に厚く、水分を吸収する能力に長けたスポンジのような性質を持っています。そのため、卵が湿った培養基などで埋もれたような状態になると、多量の水分を吸収して時に変形します。このような卵は大抵の場合、最終的に死籠りになる等ろくな事にならず、卵によっては孵卵期間の終盤に破裂します。

そのため、卵は埋めずに培養基にそのまま「置く」か、卵と培養基が直接触れないよう、ネット等を間にかませる。ただし、産み落とされた卵の状態は一定では無いため、最適な孵卵環境は一概にはいえず、例外は多々あります。

また、注意点として頻繁に孵化器の蓋を開けたり、培養基を途中で変更したりはしない事。蛇の卵は置かれた環境にある程度適応するとも云われ、途中で孵化器に大幅な手を加えたことが原因で、多くの卵を失ったと思われる事例もあるため、孵化まで手を加えず放置します。

ナミヘビのなかでも孵化までかなりの時間を要するので、環境を安定させるためにも、できる限り大きな孵化器を用意するのがポイントです。具体的には、40×30×10ほどの容器で充分です。孵化までの長期にわたる日数をふまえ、培養基に対して水の比率を多めの1:1.2~で配合します。より大きな孵化器を用意できるのであれば、1:1でも問題ないとは思いますが、孵化器内の状態は周囲の環境にも左右されるため、結局のところ、この比率は各自調整する必要があるでしょう。

また、一般的ではありませんが、水を底に張るだけで培養基を使わない孵化器というのが存在し、似たような卵殻を持つホソツラナメラやオオガシラでも孵化させることができるようなので、培養基に対して水の比率が多かったとしても、卵と培養基が直に触れないように管理すれば問題ないはずです。

卵は静かな場所に置いて管理しますが、常に一定の温度で管理する必要はありません。昼夜で多少の温度変化をつけた方が、大型で丈夫な仔が得られるとも云われています。

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

-孵化

27-29℃の管理で約120日で孵化します。ホソツラナメラと同じで、全卵自力孵化させる事が難しい蛇です。一説には、仔が分厚い殻を破れず死籠りになるとされ、最初の一匹が卵を切ったときを見計らって、ほかの卵も人工的に切ることを推奨しているブリーダーもいます。この方法は救済処置として使い、あくまでも通気口をひとつ設けるのが目的です。切り込みを入れた卵はもとの場所に戻し、仔が自力で出てくるのを待ちます。

死亡例は孵卵期間中の最後の数週間に集中しており、これは卵の中で仔が急速に成長し、孵化器の内側に水滴が付き始めるころと重なります。この時期に何らかの原因で死亡するようですが、死因は不明です。

本種と同じ問題を抱え、より繁殖例の多いホソツラナメラでは、高すぎない温度、中程度の湿度、充分な通気性が、現段階で孵化率をあげるのに有効とされています。​​​

ヤンセンナメラの孵卵温度と孵化期間

()内は孵化率

24-27℃------145日(6/7) 148日(4/4) 1--日(0/7)

26-28℃------127日(5/8)
27-29℃------121日(6/7)

卵は最初の一匹が顔を出した段階で切るようにしていますが、確実な方法とはいえません。何より懸念されるのは、最初に卵から顔を出した一匹というのは、最初に卵から出ようとした一匹とは異なるという点です。そのため、最初の一匹が顔を出した段階で、既に数匹が死籠りになっている事もあります。最悪なのは、全ての仔が卵を切る事に失敗し、一匹も自力で顔を出せなかった(最初の一匹すら出てこない)ときで、この場合は普通に全滅しています。

苦肉の策として、最初の一匹が卵を切ろうとするよりも少し前を見計らって、全ての卵に切り込みを入れるという強硬手段も使えますが、孵化日の見極めが必要なのは勿論の事逆にこの方法により卵がダメになる可能性もあるため、最終手段ともいえるでしょう。

孵化日数は107-146日まで確認されているようです。なかには約26℃が孵卵には最適で、さらに孵卵期間の終盤にかけて少し下げたほうが良いとも云われています。もっと昼夜で寒暖の差が必要な可能性もあり、高温だけが死籠りの原因と考えるのは安易かもしれませんが、飼育下では冷涼な環境での孵化率が高いようです。

参考サイト:The Care and Breeding of Gonyosoma oxycephala and Gonyosoma janseni

-死籠り

A)B)C)と表記された画像をご参照ください。これは、孵化直後に撮影したものですが、まずA)が自力で殻を破って顔を出しているところで、B)はよく見ると中心にうっすらと線が入り、切ったようなあとがあります。C)は短く切れ目が入り、破れたところから羊水が出ているのが見えます。
この直後にB)とC)の卵を人工的に切ったところ、すでに両方とも死亡していました。これがいわゆる「死籠り」ですが、注目すべきは両方ともわずかに卵を切った状態で死亡している点です。

ひとつの疑問として、はたしてこのB)やC)のような卵が、孵卵環境の改善だけで正常に孵化するようになるのかということです。今回の場合は​、偶然にも隣りあったB)C)の卵が駄目になりましたが、大抵の場合、卵の接地場所とは関係なく死籠りは起こります。

死籠りには諸説あり、乾燥から卵殻が硬くなりすぎて、仔が殻を破れず死亡するという説や、孵卵期間の終盤に​かけて卵の代謝があがったときに、孵化器内に充分な酸素がないとの説もあります。

いずれにしても、飼育下では多湿と通気性を両立することが難しく、湿度を保つことに重点をおくと通気性が損なわれ、その逆もまたしかりといった感じで、相反する要素の両立は非常に困難です。さらに近縁のホソツラナメラと共に、WCの持ち腹からとれた卵だとなぜか孵化率が良く、その際にはシビアな温度や湿度の調整も、卵を切るなどの介入も必要とせず、他種のナミヘビと同じような管理でも孵化するといいます。

このことから、CB個体や長期飼育個体からとれた卵は、持ち腹からとれた卵とは

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

異なると一部のブリーダー間で考えられ、その原因が親個体の栄養状態にあるのか、それとも環境要因にあるのかは今のところわかっていません。

いずれにしても、飼育下で親個体が形成する卵に問題があるのは間違いないと思われ、やはり最大の問題は「卵殻の厚さ」です。これは、CB個体や長期飼育個体(老成個体との情報もあります)が形成する卵は殻が分厚く、結果的に仔蛇が殻を破れず死籠りになるというもので、国産のサキシマスジオや、オオガシラでも死籠りの原因のひとつとして考えられています。

実際、この卵殻の厚さには思いあたる節があり、例えば持ち腹のホソツラナメラからとれた卵の中には、孵化直前になると、緑の体色が卵の上部やサイドからうっすらと透けて見えているものがあります。これは、長期飼育下でとれた本種の卵では見た事がなく、少なくともこの二種類を比較する限りでは、長期飼育下のヤンセンナメラの方が、殻が分厚い感じがします。ただし、肝心の持ち腹のヤンセンナメラと長期飼育下のヤンセンナメラの卵で比較した訳では無いため、断言はしません。

また、A)は頭がようやく出る程度しか殻を切っておらず、卵歯もすでに取れているように見えます。もし、この僅かな切り込みを入れるのに失敗していた場合、B)C)と同じように、そのまま死籠りになったような気もします。

なかには卵殻の厚さを薄くする方法として、親個体にマウスよりもヒヨコを中心に与えるというものがあります。理由としては、高栄養価のマウスを継続的に与えることで、卵殻が肥厚している可能性があり、本種に似た革のような分厚い卵殻を形成する、各種オオガシラの孵化率を上げるための、改善策としても考えられています。特にマングローブスネークやミドリオオガシラ、イヌバオオガシラには分厚い卵殻が原因と思わしき死籠りの例があり、どれもヤンセンナメラやホソツラナメラと同じ孵卵環境を必要とする蛇です。

B)C)は両方とも卵から出ようとした形跡があるだけに、一見すると分厚い卵殻が弊害になり死亡したと考えられますが、A)のように自力で出てくる個体もいることから、B)C)は卵殻ではなく卵自体に問題があった可能性もあります。

結局のところはどれも憶測の域を出ないので、万全を期すのであれば、卵を人工的に切ることを推奨します。なお、本種は卵を切った時の孵化率はそれなりに高い蛇です。

ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii
ジャンセンラットスネーク/Gonyosoma jansenii

D)死籠り。体が歪み、養分を残している。おそらく死んで間もない。腹部が大きく凹んでおり、窒息死したと思われる。
E)死籠り。養分が硬まり、臍の緒が白く濁っている。D)のものより死後少しだけ時間が経過していると思われる。
F)奇形(頭部が隆起している)。この個体は卵を切った段階ではまだ生きていたが、そのまま孵化することなく死亡した。
G)腐敗が進んでいる。本種に限らず、一番下に埋もれていた卵でよく見られる。

-幼蛇

孵化したばかりの幼蛇の全長は43-55cm程度、体重17-28g。ファーストシェッドは10-14日。体色は暗い緑色をしており、体表にはファーストシェッドから2-3ヶ月程度の間、マット感のある抑え気味の艶があります。

性質は基本的に臆病で荒く、喉元を膨らませて威嚇し、咬みついてくるのが普通ですが、成長とともに人の存在や扱いに慣れる個体が多い。

餌付きは良く、多くは最初からピンクマウスを置き餌で食べますが、なかには一定の期間を要するもの、数回の強制給餌を必要とする場合もありますが、大抵は一ヶ月以内に自力で食べるようになります。親個体同様に餌食い自体は良いものの、あまり大きな餌を食べるのは好まない感じがするので、最初は小さめの餌をまめに与えるのが無難です。さらに​、温度が低いと餌付けに時間がかかる場合があるので、安定して餌を食べるようになるまでは、少し高めの温度で管理します。一度餌付いた幼蛇の成長は早く、非常に丈夫で、WCの飼育経験があれば飼育は容易。

体色は3-6ヶ月ごろから変化し始め、尾や体側の模様も徐々に黒く染まっていきます。12-18ヶ月後には最終的な色彩の傾向がほぼ決まりますが、多くの場合、飼いこむほどに体色は薄くなっていきます。

-餌付け

ファーストシェッドから1-2日で食べる個体も多いですが、もっとも成功したのはファーストシェッドから1-2週目でした。前述したように、本種は最初からピンクマウスを置き餌で食べます。餌やりは単に幼蛇の近くに餌を置くだけですが、もし枝をケース内に設置している場合、幼蛇が枝の上に居座っていると、置き餌を見つけるまでにかなりの時間を要することが多く、時間とともに餌の鮮度も落ちてしまいます。対処法として、給餌前に幼蛇が餌を見つけにくそうな場所に居るときは、思いきって幼蛇を手にとりシェルターに入れ、その入り口付近に餌を置きます。本種は立ち上げ中のWCでさえ、移動後すぐに置き餌を食べるほど餌に対しては貪欲なので、CBで食べる気があれば必ず食べます。しばらく時間を置いて、まだ餌が残っていた場合は、食べる気がないので一週間ほど間隔をあけます。一ヶ月たっても自力で食べなければ、強制給餌などの対処が必要ですが、そういった個体は極稀です。それよりも飼育環境の見直しや、蛇の体に異常がないかを疑った方がよいかもしれません。経験上、孵化時に養分を完全に吸収しないで出てきた幼蛇は、長期的に餌付かないこともあり、何かと手間の掛かる個体が多いです。

また、餌のニオイを強く感じさせるために、ピンクマウスの頭部や腹部に切り込みを入れたほうが良いです。この方法は蛇の消化を助ける可能性もあり、特に幼蛇や体力が落ちた個体には推奨されています。

 

-脱皮不全

幼蛇の飼育で特に気をつけたいのは脱皮不全です。なかでも厄介なのは通常の脱皮不全とは異なり、脱皮の兆候が見られたのにも関わらず一向に脱がないというもので、慢性化すると自然には治らないかもしれません。この手の脱皮不全になった蛇というのは、長期的に体色がくすんだままになり、とぐろを巻いたときに深いシワができます。皮の一部がささくれのようにむけていることもあり、そこを皮切りに人の手ではがそうとしても、残りの部分は完全にくっついているのか、全くはがれません。これは、前述したように「脱がない」のであって「脱げない」のとは少し違います。単に「脱げない」状態であるなら、人が手伝えば事足りますが、蛇自身がこの異常な状態に対して何も対処しようとせず、脱皮自体をしなくなります。

対処法は湿度をあげて環境を改善する以外になく、もう一度蛇が脱皮のサイクルを通して自力で脱いだ時に完全に治ります。この時の脱皮殻を見ると、まるで何枚かの殻が重なったかのように分厚く、異臭を放っているものもあります。

これはアジアの蛇に多い症状で、本種のCBとWCを含めて計4個体、スジオナメラやアオダイショウでも見たことがあり、治るまで​に長い期間を要する事もあります。原因は不明ですが、もともと熱帯雨林に生息している蛇なので、普段から湿度は高めに保ち、余計なストレスを与えないなど、予防するしかありません。

 

色彩変異

ハイイエロー/ザンティック

2006年ごろにはすでに飼育下に置かれ、CB個体が流通したこともあります。体色への影響力は​それなりに強く、片親にこの個体を用いると、生まれた仔は成長とともに黄色味を帯びます。黄色の強さには個体差があります。

メラニスティック

スラヤール島のヤンセンナメラ。単に黒化するだけではなく、ホソツラナメラを彷彿させ体型から、より樹上棲傾向が強いとも考えられています。ホソツラナメラとのハイブリッド(Oxy-Jansen Hybrids)に用いられたのは、この黒化型のヤンセンナメラのようです。

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC アダルト オス 全長約170cm 520g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC アダルト メス 全長約190cm 765g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC アダルト 産卵 交尾から56日目

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

卵殻は分厚く、大きさ、形状も含めホソツラナメラに似る

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

孵化

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ハッチリング 全長約50cm 24g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ハッチリング 全長43-50cm程度 19-24g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ハッチリング 全長約50cm 23,24g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ハッチリング 全長40-45cm程度 17-18g

ヤン�センナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ハッチリング 全長45-50cm程度 21-24g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB ファーストシェッド後

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB 生後約1ヶ月

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB 生後約3ヶ月 全長約65cm 37,40g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB 生後約6ヶ月 全長約80cm 65g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB 生後約9ヶ月 全長約100cm 98g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

CB 生後約12ヶ月 全長約110cm 135g

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

眼に接触する上唇板の数は本種が3枚、ホソツラナメラで2枚

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC 目立たないが、体側に細い模様が斜めに入っている

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC 体の後部に黒がひときわ多く入っている個体

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC 長期飼育下で色が抜け、白っぽい体色をした個体

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC グレー調のシックな個体

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

ヤンセンナメラ/Gonyosoma jansenii

WC ハイイエロー 過去に複数体は捕獲されている

参考文献

・Schulz, Klaus-Dieter (1996). A monograph of the colubrid snakes of the genus Elaphe Fitzinger.Koeltz Scientific Books, 439 pp.

・Gumprecht, Andreas (2004). Spitzkopfnattern – Die Gattung Gonyosoma. NTV, 63 pp. 

・Lang, R. de & G. Vogel (2005). The snakes of Sulawesi. Edition Chimaira, 312 pp.

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